馬医者修行日記: 学問
馬の「胃潰瘍」と呼ばれるが、食道潰瘍や十二指腸潰瘍を伴うこともあるし、そうでないこともある。
原発の疾患と思われることもあるし、腸閉塞やNSAIDSの使用によって引き起こされたと思われることもある。
仔馬の「胃潰瘍」は、成馬の「胃潰瘍」と同じなのかどうか?
フロリダ大学A.M.Merritt先生が、Equine Vet J. (2009)41(7)616に用語の使用について要請(appeal)を書いておられる。
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Appeal for proper usage of the term 'EGUS' : Equine gastric ulcer syndrome
用語「EGUS」の正しい使用の要請:馬胃潰瘍症候群
「EGUSの診断と治療の推奨」と題された報告が、Equine Veterinary Journal に掲載された(Anon 1999)。その報告は、とくに馬の消化器学に興味を持ち、「馬胃潰瘍委員会」と名づけられた、12人の研究者と臨床家のグループによって書かれた。
その文章は、馬の食道、胃、そして十二指腸の粘膜の潰瘍病変を明確にする状態の病因、特徴、治療についての、最新の知見に関わる共通認識を記載した不可欠なものである。
人医療においては、このような状態は「消化性潰瘍 peptic ulcer disease(PUD)」とされる。
それは、直接胃酸に曝される消化管の部分の粘膜の糜爛病変を指すものである。
しかし、病因論、発生疫学、治療方法について考えるとき、PUDという用語は特異性に欠けるため不十分であると考えられている。
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例えば、胃食道逆流症(GERD)、それは腺の無い食道粘膜に病変を起しうる、や、ヘリコバクターピロリが起す胃炎、腺部粘膜症(Sharma and Vakil 2003)の間には病因論上の関係は確認されていない。
さらに、胃酸分泌を減らすという一般的なねらいを除けば、それらの治療はそれぞれまったく異なったプロトコールを必要とする。
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馬胃潰瘍委員会がEVEの文章を用意しているとき、馬の消化器の同様の部位の病変一般にPUDという用語が当てはまるかどうかという、考慮すべき討議があった。
最終的には大方の意見は、馬はより多くのより特異的な名前をつけるに値するものだということであった。
それゆえに、EGUSという用語はその文章で述べられたように形づけられた。
「・・その病群は食道、胃、あるいは十二指腸粘膜の潰瘍に関連しており」、但し書きとして
「その病名はその症候群のすべての状態を適切に表現していないが、便宜的に用語集に加えることは、それぞれの状態が関連していることを意味している。」
もっと簡潔に言えば、EGUSは単一の病気ではない。
いくつかの特異的な病気のプロセス-仔馬の胃十二指腸潰瘍症、強い調教プログラムに関係した上皮性胃炎、あるいはNSAID治療に関係した腺部胃炎、それらはEGUSの範疇に含まれるのだが、その文章の中で述べられた。
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しかし、それらの病気の病因論の違いは充分には強調されなかった。
残念ながら、この強調をしなかったことは、馬の胃の無腺(上皮)部の病変を直接、特異的に評価する、病変のグレーディングシステムを示すときに補足されることになった。
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したがって、この10年の間、専門的な、そして一般向けの文章が書かれ、口頭発表がなされてきたが、その中で、EGUSという用語は調教を受けている馬にもっともよく認められる、無腺(上皮)部潰瘍に限って用いられてきた。
これは間違っている。なぜなら
1)それは、もともと述べられたEGUSの定義とは異なっている。
2)それは、馬にはひとつだけの形態の潰瘍病しか存在しないという考えを進めてしまう。
2003年のAAEPのMilne講演で(Merritt 2003)、調教に関連した問題は無腺部上皮に限られ、胃からの流れ出しを機能的にも物理的にも閉塞させることがないので、'原発の上皮部の病気'としようという示唆がなされた。
これは、'二次的な上皮部の病気'とは対称的なものであるかもしれない。
そこでは、例えばGDUD(胃十二指腸潰瘍症)では胃からの流出の閉塞が問題の根底にあり、調教に関した古典的な病気とはまったく違った治療方法を必要とする。
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NSAIDや他の原因で引き起こされる腺部粘膜を含めた原発の粘膜の病変と同様に、二次的な上皮部の病気もまた、まだEGUSの範疇に入る。
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EGUSの様々な病態を示唆するその病名を適用することを主張するのは、ここでの狙いではない。
むしろ、EGUSの範疇に入れられるある病態が、発表された文章や口頭発表で検討されて、認められた観念に含まれていくことを推進したい。
このことだけが、とても重要な概念であるEGUSが一つの病気ではないことを主張してくれる。
それは、馬の上部消化器のこれらの病気についてのさらなる正確な知見を促進する上で重要である。
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う~ん、難しい文章で、ひどい訳だ。
訳がわからんという人は、原文を読んでください。
要は、馬の胃潰瘍と一口で言うけど、いろいろな原因によっておこる、いろいろな病態が含まれている。
だから、一つ一つの病態についていろいろなことが明らかにされていくまではEGUS馬胃潰瘍症候群と呼ぶけれども、一つの病気ではないことを認識しておかなければならない。
ということだろう。
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Merritt先生には、フロリダ大学へ研修に行った際にたいへんお世話になった。
ヒゲ面でたいへん怖そうな外見をしておられるのだが、とても優しい、面倒見の良い先生だった。
おじさんが日本におられたことがあったそうで、日本にも親しみがあるようだった。
「ハ~イ!順調にやっているか?」と聞いて下さるので、
「ハ~イ」と答えたら、
「Is it Japanese 'はい'、or English 'hi' ?(笑)」と聞かれた。
(それは日本語の「はい」か、英語の「hi!」か?)
大学周辺の案内に連れて行ってくれて、近所の沼にいるワニも見せてくれた。
何を食べているか訊ねたら、
「魚、犬、ときどき子供」
と言っておられた。
もうかなりのお歳になると思うが、まだ現役で活躍しておられて何よりだ。
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